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大阪高等裁判所 昭和55年(ネ)985号 判決

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人ら

1  原判決中控訴人ら敗訴の部分を取消す。

2  被控訴人らの請求を棄却する。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

二  被控訴人ら

主文と同旨

第二  当事者の主張・証拠関係

次のとおり訂正、付加等するほか原判決の事実摘示と同じであるから、これを引用する。

一1  原判決四枚目表二行目に「美与子(昭和三四年一二月一九日死亡)」とあるのを「美與子(昭和一四年一二月一九日死亡)」と改める。

2  同五枚目表三行目に「昭和五三年七月二二日」とあるのを「昭和五三年七月二三日」と改める。

3  同一七枚目裏二行目の「第四一号証」の次に「(各写し)」を、同四行目の末尾に続けて「(ただし、第四九号証は写し)」を、それぞれ加える。

4  同四四枚目(別紙親族関係図)に〓田美与子」とあるのを「〓田美與子」と改める。

5  同四五枚目(別紙登記名義変更図)表四行目に「S・40・8・11付」とあるのを「S・40・8・31付」と改める。

二  当審における付加主張

1  控訴人ら

原判決別紙物件目録(一)ないし(七)、(一〇)、(一一)の物件についても、原判決事実摘示抗弁欄1記載のとおりの権利移転がなされたもので、その各登記は架空のものではない。すなわち、

(一) 静雄は、信忠に相当額の貸金債権を有しており、信忠の財産が川勝親子のものになることは静雄じしんにとつても看過しえなかつたところから、自己の貸金額に相当する物件を信忠から取得することになつたものであり、また、右貸金中には山田セビロン株式会社から出ている分もあつたので、その負担割合に応じ静雄個人と山田セビロン株式会社にそれぞれ所有権移転登記がなされたものである。

(二) 右の物件は信忠の財産中の限られた一部であるが、被控訴人ら主張のように財産保全の必要からなされた架空のものであるとすれば、財産の一部についてのみ右のような措置がとられるのは不合理である。

(三) 前記(一)ないし(七)の物件については、昭和三四年一二月一九日受付で売買予約による所有権移転請求権仮登記がなされていたのが信忠死亡直後の昭和三五年一月二一日、所有権移転の本登記がなされているが、財産保全の目的であれは、仮登記だけで十分その目的が達せられるだけでなく、むしろその方が無駄な登記費用を必要としないし、後日もとに戻す手続も簡便で合理的である。

(四) 静雄は、かつて、京都家庭裁判所調査官に対し、本件物件はいずれも信忠から買取つたものである旨明言しており、後日これを翻した同人の申述書(甲第一二号証)は信頼性がない。のみならず、静雄は、同人じしん譲渡所得申告をしたり、売買代金を受領したり、(七)の物件を自ら売却したりして実体的権利者として行動している。

(五) 被控訴人ら主張のように単に財産保全のためであれば、一部の物件を山田セビロン株式会社名義にする必要はなく、すべて静雄名義にしておくことで十分である。のみならず、同会社は、(一〇)及び(一一)の物件を取得するや同会社の顧問弁護士松本半九郎名でこれら物件の占有者川勝玉枝に対し使用貸借契約の解除通知を発し、次いで明渡請求訴訟を提起してこれを遂行し、昭和三八年一月三一日これらを控訴人千枝子に売却するなど同物件について実体的権利者として保存行為や処分行為をしている。

(六) これらの点からみて、前記の各権利移転が架空のものでないことは明らかである。

2  被控訴人ら

控訴人らの右1の主張は争う。

(一) 前記の物件は信忠の財産の全部ではないが、他の財産は交換価値、担保価値が低く、担保に入れたり売却したりできる手頃な物件は右の物件であつた。のみならず、同物件以外の信忠の財産も信忠死亡の前日である昭和三五年一月一九日に債務者三洋染工株式会社(長男英三経営)のために仮登記及び抵当権設定登記をすることにより別途の方法で保全措置がとられた。

(二) 静雄の申述書(甲一二号証)は、十分信用性がある。同人は、それ以前に家庭裁判所調査官に右申述書の内容と異なる供述(信忠から静雄らへ前記登記簿記載のとおりの権利移転があつた旨の供述)をしたかも知れないが、その理由は甲一三号証で述べているとおりであり、要するに、同人は、信忠からの名義移転が財産保全のためであつたところから、その必要性が消えないかぎり登記簿上の記載に符合した表面上の事実を述べたにすぎないのである。

(三) 控訴人ら指摘の譲渡所得税の申告書を静雄が作成したこと、賃貸借契約の解除通知や明渡の裁判に山田セビロンの名前が使われていることなどは、前記物件が財産保全のため仮装的に静雄らに名義が書きかえられたわけであるから、第三者に対して静雄らが所有者として振るまつたことは当然のことであつて異とするに足りない。

(四) 信忠から静雄らへの名義移転が仮装であり、したがつてまた静雄らから控訴人千枝子への名義移転も静雄らが実体的権利者であることを前提としてなされたものでないことは静雄らに名義が移転したことによつて同人らに賦課される不動産取得税、固定資産税、所得税の増額分や登記費用等がすべて初鹿野側で負担していたこと、家賃収入も静雄ではなく初鹿野側で取得していたこと、控訴人千枝子じしんが手紙の中でそうした事実を述べていることなどから明らかである。

三  当審における証拠関係(付加)(省略)

理由

一  当裁判所も、被控訴人らの本訴請求中原審が認容した部分は正当としてこれを認容すべきものと判断する。その理由は、次のとおり訂正、付加等するほか、原判決の理由説示と同じであるから、これを引用する。

1  原判決二三枚目表一行目に「第七号証の各一」とあるのを「第七号証の各二」と改める。

2  同二六枚目裏七行目の末尾に続けて「また、当審証人初鹿野磯吉の証言も前記疑念を解消するものではない。」を加える。

3  同二七枚目表三行目の「建物」の次に「並びに(一〇)、(一一)の各物件」を、同裏一一行目の「静雄」の次に「及び山田セビロン」を、それぞれ加える。

4  同二八枚目表五行目、同五行目ないし六行目及び同八行目に各「静雄」とある次に、それぞれ「もしくは山田セビロン」を加える。

5  同枚目裏三行目に「甲第二三号証の二の」とあるのを「成立に争いのない同第二三号証の一、」と、同五行目に「同号証の一、」とあるのを「同第二三号証の」と、それぞれ改める。

6  同二九枚目表四行目の「甲第二四号証の二の」を削り、同所に「同第二四号証、同第二七号証、同第二九号証の各一、」を加え、同六行目に「同号証の一、」とあるのを「同第二四号証の」と改める。

同七行目の「甲第二七号証の二の」を削り、同八行目から九行目にかけて「同号証の一、」とあるのを「同第二七号証の」と改める。

同九行目から一〇行目にかけて「甲第二九号証の二の」とあるのを削り、同末行目に「同号証の一、」とあるのを「同第二九号証の」と改める。

7  同三〇枚目裏一行目の「甲第二五号証の二の」を削り、同二行目から三行目にかけて「同号証の一、」とあるのを「同第二五号証の」と改める。

同五行目の「甲」の次に「第二五号証の一、同」を加える。

8  同三一枚目裏九行目の「甲第二六号証の二の」を削り、同一一行目に「同号証の一、」とあるのを「同第二六号証の」と改める。

同一一行目から末行目にかけて「甲第三〇号証の二」とあるのを削る。

9  同三二枚目表一行目に「同号証の一、」とあるのを「同第三〇号証の」と改め、同二行目から三行目にかけて「成立に争いのない」とある次に「同第二六号証、同第三〇号証の各一、」を加える。

同一一行目の「方法であるとして」の次に「控訴人千枝子において自らの判断で」を加える。

10  同三四枚目表七行目の次に行を改めて次のとおり付加する。

「(ト) 当番証人初鹿野磯吉の証言及び原審における控訴人初鹿野千枝子本人尋問の結果中には、静雄は、当時、信忠に対し相当額の債権を有しており、同人名義に移転登記がなされた前記各物件は右の債権により決済されたかのような供述部分があるが、これらの部分はいずれも具体性に欠けるのみならず、前掲甲第一二号証、同第三五号証に照らしてにわかに採用できないし、他に静雄が信忠に対しいかなる内容、金額の債権を有し、これが右の各物件といかに決済されたかを明らかにする証拠はない。したがつて、静雄が同物件の所有権移転登記を受けるにつき信忠に対価を支払つた事実を認めることはできない。また、山田セビロンが同会社名義に移転登記された前記各物件につき、同じくその対価を支払つた事実を認めるに足りる証拠もない。

(チ) 控訴人らは、信忠から静雄及び山田セビロンへの前記登記名義の移転が実体を伴わない財産保全のためのものであつた旨の静雄の前記申述書(甲第一二号証)の記載内容は信用性がないと主張し、公証人作成部分の成立については争いがなく、その余の部分については原審における被控訴人初鹿野治郎作本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる同第一三号証によれば、静雄は右の申述書作成前に家庭裁判所調査官に対し、(一)ないし(七)、(一〇)、(一一)の各物件につき信忠から静雄及び山田セビロンへ登記簿記載のとおりの権利移転があつた旨述べていたことが窺われる。しかし、右甲第一三号証の全記載に、前掲同第二二ないし二七号証の各一、二、同第二九、三〇号証の各一、二、同第四二号証の一、同第四六号証、同第四七号証の一ないし八及び右被控訴人初鹿野治郎作本人尋問の結果をあわせ考えると、静雄の右申述書(甲第一二号証)の記載内容は十分信用性があるものと認められる。」

11  同三四枚目の裏九行目の「移転されていること」の次に「、」を加え、同行目の「(以上の」から同一〇行目の「しかして」までを削る。

12  同三五枚目裏一行目冒頭の「たのは、」の次に「控訴人千枝子から先に静雄及び山田セビロン名義となつた物件全部の返還、引渡しを求められ、話合いの結果静雄の」を加える。

同六行目に「認められ〔」とあるのを「認められる。」と改める。

同九行目の「前者については、」の次に「成立に争いのない甲第三一号証の一、」を加える。

同一〇行目から一一行目にかけて「甲第三一号証の一、」とあるのを「同第三一号証の」と改める。

13  同三六枚目表二行目に「措信しがたい〕、」とあるのを「措信しがたい。」と改め、これに続けて次のとおり付加する。

「また、当審証人初鹿野磯吉の証言中には、昭和三七年の梅雨時に静雄から控訴人千枝子に対し、先に静雄ら名義になつた各物件の買戻しの求めがあり、同控訴人は昭和三八年一月中旬ころ訴外西岡から金三五〇万円を借入れてこれを買戻代金にあてたかのような供述部分があり、右証言により成立の真正を認めうる乙第一〇号証によれば同控訴人が右時期に西岡から金三五〇万円を借入れたことが認められる。

しかし、静雄が同控訴人に前記各物件の買戻しを求め、同控訴人が西岡から借入れた金三五〇万円をその代金として静雄に交付した事実については、右の供述じたい具体性を欠き明確でないうえ、その供述部分を前記甲第一二号証の記載と対比し、また、控訴人らにおいて右買戻しの際の領収証を提出しないこと(控訴人らが買戻しの証拠として提出している成立に争いのない乙第二六ないし二八号証、同第二九号証の一、二の各売渡証書の記載によれば、その内容が虚偽でないかぎり、領収証が発行されていたことが明らかである。)などをあわせ考えると、右の供述部分はにわかに採用できない。

さらに、右乙第二六ないし二八号証、同第二九号証の一、二によれば(一)ないし(六)、(一〇)、(一一)の各物件(但し(一〇)の物件については二分の一の共有持分)については、静雄もしくは山田セビロンから控訴人千枝子宛の売渡証書(登記済証)が存在することが認められるけれども、これらの証書はいずれも司法書士事務所備え付けの同一形式(契約文言は不動文字)のもので、静雄及び山田セビロンの押印欄には〇印が付されていること、そして各金額欄にはいずれも「別紙領収書記載の通り」なる記載があるが、前記のとおり右の領収証は控訴人らにおいて提出していないことなどの諸点に、前記甲第一二号証、同第三一号証の一、二(前同除外部分を除く。)をあわせ考えると、右各売渡証書は登記手続に際しそのために作成された疑いが強く、これらの存在も実質的な売買がなされた証左とみることはできない。」

14  同三六枚目表二行目に「右事実」とあるのを「以上の認定判断」と改める。

15  同枚目裏四行目の「甲第三五号証」の次に「弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第四、五号証」

を、同七行目の「川勝玉枝」の次に「に対し使用貸借解除通知をなし、その後同人を」を、それぞれ加える。

16  同枚目裏九行目に「事実によれば」とあるのを「事実、及び前記のとおり山田セビロンから控訴人千枝子への登記移転に関する必要書類等も山田セビロンの代表者ではなく、静雄においてこれらを一切整えて同控訴人に交付していた事実などから考えると、」と訂正付加し、同行目に「提起は」とあるのを「提起等も」と改める。

17  同枚目裏一〇行目に「所有者であるとして」とあるのを「所有者として自ら主体的に」と改め、同末行目の「右訴訟提起」の次に「等」を加える。

18  同三七枚目表二行目の末尾に続けて「当番証人初鹿野磯吉の証言もこれを動かすに足りない。」を加える。

19  同枚目表二行目の次に行を改めて次のとおり加える。

「なお、前掲甲第一ないし七号証の各二、乙第八号証、成立に争いのない同第二五号証の一ないし九及び弁論の全趣旨によれば、(イ)、前記(一)ないし(七)の物件については信忠から静雄に対し一旦売買予約を原因とする所有権移転請求権仮登記がなされたうえ本登記が経由されていること、(ロ)、信忠は、当時、(一)ないし(七)、(一〇)、(一一)の物件(但し(一〇)の物件については二分の一の共有持分)、以外にも不動産を所有していたが、それらについては静雄もしくは山田セビロンに所有権移転登記がなされていないことが、それぞれ認められる。しかし、前記(2)の各事実に照して考察すると、右(イ)、(ロ)の事実から直ちに(一)ないし(七)、(一〇)、(一一)の物件(但し(一〇)の物件については二分の一の共有持分)につき、信忠から静雄もしくは山田セビロンに真実売買による所有権移転がなされたものと認めることはできないのみならず、(イ)については控訴人ら主張のとおり仮登記のみでも事実上一定範囲で財産保全の機能を果しうることは所論のとおりであるとしても、本登記を経由すればその機能は一層強固なものになること、(ロ)についても、前記のとおり控訴人千枝子及び信忠らは主として川勝親子との関係で財産保全の必要性を感じていたわけであるから、川勝親子によつて侵害される虞れの強い財産を保全するところに重点があつたと考えられることなどの点からみて、前記(イ)、(ロ)の事実も信忠から静雄もしくは山田セビロンへの前記各登記が実体を伴わない財産保全のためのものであつたことと必ずしも矛盾するものではない。」

20  同三七枚目裏一〇行目の「場合にも」の次に「原則的には」を加える。

21  同三九枚目表二行目ないし三行目の「(なお」から同七行目末尾までを削る。

22  同枚目裏四行目から五行目にかけて「善意であつたとは到底いい難く」とあるのを「悪意であつたものと認められ」と改め、同五行目の「同被告に」の次に「その主張の」を加える。

23  同四〇枚目表二行目の「ないところ、」から同裏一〇行目までを削り、同所に「ないけれども、右各物件についての信忠から静雄への所有名義の移転は前記のとおり財産保全のための仮装のものであるところ、その後者に属する崔仁煥若しくは〓田恵以において、右崔が(七)の物件につき、右〓田が(三)、(四)の各物件につき、いずれも有効にその所有権を取得したことの主張、立証はないから、右各物件はなお信忠の遺産として残存しているとみるべきである。」を加える。

二  してみると、原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(別紙の親族関係図、登記名義変更図は、第一審判決添付のものと同一につき省略)

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